曲名:
U Got The Look(ユー・ガッタ・ザ・ルック)
アルバム名:
Sign ‘O’ The Times(サイン・オブ・ザ・タイムズ)
作者:PRINCE(プリンス)
それはパン屋でアルバイトしていた時のこと。
有線放送からプリンスの新曲「U Got The Look」が流れてきた。
その曲を最初に聴いた印象がこちら。
(変な曲だなぁ~・・・)
パン生地をこね、生地を成形し、具材をトッピングしながら、変な曲「U Got The Look」に耳を傾けていた。
「Tさん、変な曲ですね。」
私は一緒に働いていた社員の方に同意を求めた。
そこは大手パン会社が展開するチェーン点で、毎年新入社員が配属されるので人事異動は頻繁だが、その分様々な逸材に出会える。
今年、配属されたのは大学卒で洋楽にはちょっとうるさい方だった。
一通りの洋楽には耳を通しているらしい・・・なかなかの強者だ。
「ああ、変な曲だな。」
お互いの意見が一致した。
と、いうことはお互い似たような感性の持ち主ということだ。
「ふっ、天才天才と騒がれていても所詮はこんなもの。たった二人の日本男子を感服させることが出来ないのだから・・・」
天才に対して完全にマウントを取り、気分上々で発酵させたパンをオーブンに投入した。
その後も結構なローテーションで曲が流れた。
おそらくだが、我々と同じ様に「変な曲」認定した近所のライバルパン屋の店主が、嫌がらせの営業妨害のつもりで、有線リクエスト担当のお姉さんに「ぐヒヒ、プ、プ、プリンスの変な曲よろしくね。」と電話しまくったに違いない・・・。そんなこんなで、否が応でも「U Got The Look!」と奇妙なリズムに奇妙なシャウトを乗せて、美しくもワイルドに転身したシーナ・イーストンと奇妙な世界観を歌い上げるプリンスの歌声を聞き続けることになった・・・。
何度も何度もローテションされる曲に、こちらも無意識下でリズムに合わせ、パン生地をこね、生地を成形し、トッピングをし、焼き立てのパンを並べ、レジを叩く・・・。
そして幾日が過ぎた頃だろうか・・・
ハッ・・・として、パンをこねる手を止める。
そして数日前、意見の一致を見た「Tさん」と顔を見合わせた。
「かっこいい曲ですね。」
「ああ、かっこいい曲だな!」
ほとんど同時に同じ感想を述べたので、お互い笑みがこぼれた。
洋楽にうるさい「Tさん」も天才の前には凡人寿限無と大差なくなる。今までどんな名だたるアーティストを聴いていようが、真の天才が生み出した曲の前には、全てが大量生産された変り映えのない凡庸な曲に聞えてしまうのだ。
ファーストインプレッションは「変な曲」にしか聞えなかった「U Got The Look!」。
我々二人は天才が意図する曲の方向性に全く気が付いていなかったのだ!
しかし、誰が我々を責められようか?
人類が一度も聴いたことがない先鋭的音楽なのだ。
プリンスは一般人が「何これ?変!」と感じる要素をかき集めて、驚きべき新感覚のポップミュージックを創造したのだ!
正に現在に降臨した音楽神プリンス。
有線放送が流れるスピーカーの向こうで「ヤレヤレ、分かっていないなぁ」と肩をすぼめながら、音楽的落ちこぼれの典型的短足日本人2人を見捨てずに、天才の感覚を理解できるまで、しかっりと教育してくれたのだ。
ありがとう、プリンス。
ありがとう、有線リクエスト担当のお姉さん。
それにしても・・・忌々しいのはアメリカ人。
奴らはいち早く、「U Got The Look!」のかっこよさに気が付いて、電車や道ばたで腰をクネクネ踊らせていたのだ!
天才の音に即反応できる音楽的センス。
妬ましいほど音楽的感性に優れたエリート民族。
素晴らしき国アメリカ。
ビバ・アメリカ!ビバ・ラスベガス!
最後に「U Got The Look!」のミュージックビデオを見ながらお別れしよう!
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