Forever In My Life・初期バージョンに隠された素顔の王子

Sign O' The Times (Super Deluxe)

曲名:
Forever In My Life (Early Vocal Run-Through)

アルバム名:
Sign O’ The Times : Super Deluxe Edition

作者:Prince

「Forever In My Life」はプリンスミュージックの決定版、最高傑作の誉れ高い2枚組アルバム「Sign O’ The Times (1986年)」の1枚目、ラストを飾る曲。
そして今回取り上げるのは、プリンスの死後、遂に!遂に!発売された「Sign O’ The Times : Super Deluxe Edition 8CD+DVD」!!!
CD8枚のボリュームの内、3枚は寿限無が長いこと夢に見た(実際に夢に見たことは無いが)、とにかく待ちに待った未発表曲集なのだ!
寿限無のプリンス信者歴はこのアルバムから産声を上げ、全プリンスファン同様に、500を超えると噂される未発表曲を求めて西新宿のブートレッグレコードショップに足繁く通い、時には「The Black Album」のクソ音質にむせび泣き、時にはゾクゾクする様な「Crucial」な出会いに感動し、天才が作り上げた素晴らしい曲の数々に魅了される日々を送っていた。
このように、公式以外のレコードでもファンを退屈させないサービス満点のアーティストなのだ(おい!プリンス非公認のブートレッグだってば!)。

まあ、そんなこんなで「Sign O’ The Times : Super Deluxe Edition」発売前は事前にアナウンスされていた曲目を眺め、止めどなく溢れ出すよだれを拭きながら、一人ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「おお!”Cosmic Day” youtubuで1分ほどのクソ音質で出回っていたけど、本当にプリンスの曲だったのか!!」
「わお!”Jealous Girl” youtubuで2分ほどのクソ音質で出回っていたけど、ついに完全版が聴けるのか!」
ネット界隈で非公式に流通していた「”A Place In Heaven”や”In A Large Room With No Light”、”Train”などの公式的には未発表曲も高音質版で聴けるのだーー!うほほーーい!」
もうマジで失神しそうなほど興奮しながら、発売を今か今かと待ち焦がれていた。

そしてついに発売当日、宅配業者から手渡されたLPレコードサイズの重厚なジャケットを見て、「やば!もしかしてLP版と間違えて購入したのか!?」と心臓が飛び出るほど焦ったが、箱を空けるとCDで4枚ずつ並べられていたので一先ず安堵し、それから一枚ずつCDデッキに挿入し、スピーカーから流れ出る神々しいばかりのサウンドに酔いしれていた。

ところが・・・
なんと!

数多ある未発表曲の中で、寿限無が一番驚き、一番心ときめかせたのが元々アルバムに収録されていた「Forever In My Life」の別バージョン「Forever In My Life (Early Vocal Run-Through)」なのであった!

オリジナルバージョンの「Forever In My Life」は、なんと言うか、うーん・・・、そう、どんな感情で聴くのが正解なのか分らない謎めいた曲だった。
愛の賛歌的な美しい歌詞には釣り合わない陰鬱な曲調で、退屈なリズムを刻みながら淡々と進行する。
まあ、ファンキー的な?
プリンスらしいと言えばらしいのだが、どこか解せないもどかしさを感じていた。
曲の2番目に入ると、メインボーカルとバックコーラスの絡みが斬新で面白く、その点は「流石はプリンス!」と溜飲を下げていたが、実は録音時の調整ミスでボーカルにズレが生じたのをプリンスが気に入り、そのままの状態で発表されたらしい。
つまりプリンス的にはお気に入りの曲なのだ。
確かに技巧的にはグッとくる曲ではあるが、不穏とも思える曲調に乗せた愛に溢れた歌詞を、彼はどのような感情で歌っていたのか?
そして我々プリンスファンはどんな感情で聴けばいいのか?

Forever In My Life (2020 Remaster)

素晴らしい輝きを放つ収録曲の中で、どちらかと言うと埋もれがちで地味な曲。
どちらかと言えば寿限無も積極的に聴くタイプの曲ではなかった。

そんな負の印象を跡形もなく吹き飛ばしたのが、2020年に発売された「Sign O’ The Times : Super Deluxe Edition」収録の初期バージョン「Forever In My Life (Early Vocal Run-Through)」。

寿限無はわが耳を疑った。
これがあの「Forever In My Life」?

そこには、愛溢れる歌詞に相応しい美しいメロディーが添えられていたのだ。

Forever In My Life (Early Vocal Run-Through) (2020 Remaster)

これも天才アーティストが仕掛けたトリックなのか?

この曲、実は当時の恋人スザンナの為に書かれ、彼女の前で歌われたプリンスのとって大切な曲。
曲調は優しく幸福感に溢れ、涙が溢れそうになるステキな曲なのだ。
寿限無はこの曲に心を打たれ、プリンスの好きな曲NO.1になってしまった。

ああ、なんて素晴らしい曲だろう・・・
まさか、こんな名曲が隠されていたなんて!
プリンスの意地悪!
ばかばかばか!もう知らない!

だが、幸福感に包まれるのは曲の前半だけ。
後半、曲調はオリジナル同様に不穏な雰囲気に変り、無表情のまま淡々と演奏され最後はフェードアウトで終了する。
この変化は何を意味しているのだろう?

「Forever In My Life (Early Vocal Run-Through)」の曲が完成して間もなく、スザンナとの関係にピリオドを打ち、「Sign O’ The Times (1986年)」には前編不穏な雰囲気に満ちたオリジナルバージョンが収録されたのであった・・・

そこには、幸福感に包まれたプリンスの姿はなく、リスナーのマインドに音楽革命を起こす「怪物プリンス」の咆哮だけが静かに鳴り響いていた。

本来、「Forever In My Life (Early Vocal Run-Through)」は世に出るべき曲ではなかったのかも知れない。
プリンスの極めてプライベートな恋心を綴った曲。

きっと、プリンスは予感していたんだ。
ハッピーエンドにならない結末を…

類い希ない才能を持つ青年は己一人の幸福と決別し、その天賦の才が命じるまま「Forever In My Life (1986)」オリジナルバージョンを歌い上げる選択をしたのだ。

一人のアーティストとして。

我々ファンの為に。

ありがとうプリンス。

あなたと同じ時代に生きた幸運を神に感謝します。

「Sign O’ The Times : Super Deluxe Edition」が発売された2020年9月25日のこの日、全プリンスファンが幸福の涙で包まれたのでした。

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