Nothing Compares 2 U・あなたに敵うものなどなにもない

曲名:
Nothing Compares 2 U(ナッシング・コンペアーズ・トゥー・ユー)

アルバム名:
ORIGINALS(オリジナルズ)

作者:PRINCE(プリンス)

今回紹介するのは、プリンスの死後に発売された他アーティストに提供した曲が満載な心躍るアルバム『オリジナル』からの一曲。1985年に『The Family』の最初にして最後のアルバム『The Family』に提供された隠れた名曲『Nothing Compares 2 U』。

この曲は後(1990年)に、アイルランド出身の女性シンガー『シネイド・オコナー』にカバーされ世界的に大ヒットを記録しました。

私はその当時、アルバイト先のパン屋から流れる有線放送で初めてこの曲を聴いたのですが、レジ打ちをしながら「これはプリンスの曲に違いない!」と、なぜが直感が電気の様に全身を走り、興奮を抑えられないまま有線局へ電話かけて歌手と曲名を教えてもらい、近所のレコード店へダッシュしました。
そしてシネイド・オコナーのシングルCDジャケットを手にした瞬間「ニヤッ」と勝ち誇ったように笑みを浮かべたのです。

『Nothing Compares 2 U』の『 2 U』。
プリンスは『to = 2』『you = U』と表記することから、そのタイトル表記を見て「プリンスの曲に間違いない!」と確信したわけです。

その時は「グフフ、ボクって凄い!プリンスファンの鑑じゃん!」と自画自賛のキモオタ状態でしたが、後から考えるとシネイド・オコナー版『Nothing Compares 2 U』は全然プリンスらしくないので、なぜ「これはプリンスの曲!」という直感が働いたのか不思議でなりません。
しかも原曲のThe Family版『Nothing Compares 2 U』を聴くとシネイド・オコナーとは少し違うアレンジが施されている。余談ですがシネイド・オコナー版『Nothing Compares 2 U』は日本人の屋敷 豪太(やしき ごうた )氏が全楽器の演奏とプログラミングを担当したそうで、プリンス臭から離れた洗練された印象を受けるのです。

そんな訳で、The Family版『Nothing Compares 2 U』を聴けば聴くほど「あれは何の直感だったのか?」と思わずにいられませんでした。
過去に『Nothing Compares 2 U』を聴いた事がない限り「これはプリンスの曲!」と直感に至る要素が見当たらない…という訳なのです。

シネイド・オコナーのヒットに気を良くしたプリンスもライブで『Nothing Compares 2 U』を歌い始めましたが、後に正式にCD化された曲(HITS/B-SIDESに収録)は、当時のバンドメンバーでハリケーンの様なボーカルの持ち主『ロージー・ゲインズ』とのデュエットだったので、私的理由(『The Arms of Orion・正統派ラブソングはエロソングに勝てるのか?』参照)により、デュエット形式のありきたりなラブバラードという印象を拭いきれませんでした。

2002年の3枚組ライヴ盤『One Nite Alone…Live!』では、プリンスが観客に歌わせ、キャンディ・ダルファーのサックスがさく裂し、最後はシャウト気味に歌詞を崩しながら(?)熱唱するプリンス単独のライブ演奏を聴くことができるが、やはりで叶うならばオリジナルのスタジオ音源が聴きたい。
それがファンの痛切な願いなのだ。

シネイド・オコナー版、The Family版、デュエット版、ライブ版など様々な解釈で『Nothing Compares 2 U』は歌われているが、果たして作曲者のプリンスが当初、どんな想いで曲を書き、どんな想いを込めて歌ったのか?

プリンスが一番初めて解釈した、そのスタジオ音源を聴いてみたい。
一切のフィルターを通さない状態で歌われた『Nothing Compares 2 U』を聴いてみたい。

プリンスは500曲もの未発表曲が存在すると言われている音楽界の怪物。
必ず一人で録音したオリジナル版が存在するに違いない!
そんなプリンスファンならではの想いに駆られながら、ネット界隈で日夜情報を検索し続けたが、該当する情報は得られず空しく時は流れ、『Nothing Compares 2 U』に対する興味も次第に薄れていった。

もっともThe Familyというバンドはプリンスプロデュースのバンド…と言っても殆どプリンスが曲を作り、演奏し、プリンスのガイドボーカルに従い、プリンスの気に入るように歌わされた傀儡バンド。
ボーカルのセント・ポール・ピーターソンも当時のインタビューでプリンスに対する恨みつらみを吐露していた。「ここはこう歌う、そこはそうじゃない、まるで3歳児のように扱われた。(5歳児だったかな?)』インタビュー記事が見当たらないから正確な文言ではありませんが、大凡こんな感じのニュアンスだったので、例えプリンス版『Nothing Compares 2 U』が存在していたとしても、The Family版と比べて大きな違いもないだろうし目新しい感動は無いのかも。

それから時は流れ(あ、この流れの中でプリンスは逝去しております。)、プリンスの命日を迎えた前日(2018年4月20日)、我々ファンの予想をぶった切る衝撃と共に、プリンスによるオリジナル・バージョン『Nothing Compares 2 U』が配信されたのです!!

その時の驚きと興奮をどう表現すべきだろうか!
存在しないと思われていた曲が、実際には存在し、スピーカーから流れ出た瞬間の驚きと興奮を表現する最も相応しい言葉とは?
とてもとても言葉で表現できる感情ではない!
と思っていたのですが…

はい。
それがあったのです。
ピタリと言い表す言葉が!

下記はプリンス版のオリジナル・バージョン配信に合わせて紹介された関係者の記事。
実際にプリンスが残した膨大な遺産(未発表曲)を整理していた管理人が、その驚きと興奮を端的に、そして完璧な言葉で表現してくれたのです。

今回初めてリリースされることとなったこの未発表オリジナル・バージョンは、90年発表のシネイド・オコナーによるバージョンや、プリンス本人がライヴでこの曲をプレイするよりも前となる、1984年にレコーディングが行われていた音源で、エデン・プレイリーにあるフライング・クラウド・ドライヴ・ウェアハウスにて、プリンスの作品を長く手掛けてきたエンジニア、スーザン・ロジャーズによってレコーディングされている。

プリンス本人によって作曲・アレンジが行われ、そしてほぼ全ての楽器も本人が演奏したものとなっており、バッキング・ヴォーカルとしてスザンナ・メルヴォワンとポール・ピーターソンが参加している。また、エリック・リーズもこのオリジナル・トラックでサックスをプレイしている。

A&Rエグゼクティヴにしてプリンスの専門家、そしてプリンス・エステートの正式な記録保管人でもあるマイケル・ハウは、このバージョンに関して次のようにコメントしている。「1984年時代の一覧を作成している時に、この2インチのマルチトラック・リールを発見したんだ。床まで落ちてしまった顎をまず元に戻してから、そのリールを運びだし、状態を分析して、スチューダーの24トラックに取り込み、そこに入っていた音源を24bit/192kHzでデジタル化した。私達が行った非常にラフなミックスですら、ここに収録されている音源は本当の意味で素晴らしく特別なものである、というのを感じさせるものだったよ」

https://nme-jp.com/news/53453/

「床まで落ちてしまった顎をまず元に戻してから」

真ん中のコイツ。
こんな感じの、アメリカのアニメでは定番な「顎が床に落ちる驚きの表現」。
我々プリンスファンにとって、プリンス版のオリジナル・バージョン『Nothing Compares 2 U』の存在は、正に「顎が床に落ちるような」現実にはあり得ない驚きと共に迎えられたのだ!(実際に顎が床に落ちたかと言えば、落ちるはずないのだが…)

そして実際に聴いた印象。
プリンス版のオリジナル・バージョン『Nothing Compares 2 U』はThe Family版とは違った。
やっぱ、プリンスが歌うと違う!
全然良い!!
全く別の曲に聴こえる!!!
The Family版と多少アレンジは変えているが、やはりプリンスは表現者として超一流だと改めて実感した。声質という元々の素材も良いのだが、ボーカリストとして超一流、いや唯一無二の存在。
プリンスの歌声を聞くと彼の表情が聞き手の網膜に飛び込んでくる。
笑ったり、叫んだり、悲しんだり、いたずらっぽく微笑んだり…
歌声から彼の表情がハッキリ見えてくるのだ。
世界には歌唱技術、音域、声量などプリンスより優れたボーカリストは沢山存在するに違いないが、アメリカのメジャー音楽雑誌ローリング・ストーン誌の選ぶ「歴史上最も偉大な100人のシンガー」第30位に選ばれるのだから、音楽の専門家もボーカリストとして並々ならぬ才能を感じるのだろう。

シネイド・オコナー版『Nothing Compares 2 U』を今改めて振り返ると、そこで表現された彼女の感情表現がプリンスのそれと似ていたのかもしれない。
シネイドは『Nothing Compares 2 U』のミュージックビデオの中で一粒の涙を流す。
その涙はある人を想って流した涙らしい。

当初『Nothing Compares 2 U』はラブソングと誰もが思っていた。
歌詞の中で『I know that living with me baby Is sometimes hard, But I’m willing to give it one more try(俺と暮らすのがつらいこともあったはず、だけどもう一度やり直したい)』と歌われる一節がある。
しかしシネイドはこの歌詞を『I know that living with U baby was sometimes hard(あなたと暮らすのが辛いこともあったけど)』と自分ではなく相手へ向けて歌っている。

この歌詞を読んだ当初、シネイドは恋愛関係の責任を一方的に相手に押してけているように聞こえて、少し嫌な印象を覚えた記憶があります。
ところが、後にシネイドがイギリスのTVで行ったインタビューで『Nothing Compares 2 U』の『U』が恋人に向けたものではなく、自分の母親に向けたものと知りました。
その母親というのは今でいう相当な「毒親」らしく虐待を受けて育てられたそうです。
しかし、そんな母親を憎くむことなく愛し続けたシネイドは『All the flowers that U planted, mama, in the back yard / All died when U went away(ママ、あなたが裏庭に植えた花はあなたがいなくなると枯れてしまった)』のくだりで、3年前に事故死した母を思い出し涙したと語っている。

母に対する様々な葛藤もあるだろし、捻じれても不思議じゃ無い複雑な感情が、プリンスの書いた歌詞により唯一無二の愛として具現化され、彼女の想いをストレートに歌い上げられたからこそ、この曲はヒットし世界中の心に響いたのかもしれない。
歌唱法や技術的な類似ではなく、その時に歌に向き合う精神、そしてその表現方法がプリンスのそれと似ていたので「これはプリンスの曲に違いない!」と直感したのだろうか。

あと、これは最近知ったのですが、実はプリンスの歌う『Nothing Compares 2 U』も実は恋人に向けたものではなく、プリンスの身の回りを世話していたサンディ・シピオニという女性にインスパイアされた曲というのだから、これには寿限無も驚いた!

『Nothing Compares 2 U』の公開にあたり、プリンス専属のレコーディング・エンジニアとして『パープル・レイン』から『ブラック・アルバム』までのレコーディングを担当したスーザン・ロジャースが同楽曲の秘話を語ってくれました。

この曲を聴いたとき、プリンスが特定の人物に捧げた楽曲だと思いましたか?

スーザン:特に誰かに捧げたという風には思わなかったけど、ある人の存在がヒントになっているかもしれない感じはしたわ。それはサンディ・シピオニという女性で、ごく初期の頃からプリンスの家で働いていたの。(中略)18歳の時にプリンスの家で働き始めたんだけど、ある時お父さんが突然亡くなってしまい、実家に帰ってしまったの。

彼女の仕事は冷蔵庫の中に食べ物を入れて、洗濯をして、家の中をきれいにすること。“Nothing Compares 2 U”の中に「All the flowers that you planted,In the backyard all died when you went away(きみが植えた裏庭の花はきみがいなくなって枯れてしまった)」という歌詞が出てくるんだけど、お花の世話をしていた君、というのは彼女のことなの。

(中略)ある日、ウェアハウスで彼は突然ノートを持って別の部屋に行き、数時間後に戻ってきてそのノートをコンソールの上に置いたの。最初の歌詞は「It’s been seven hours and thirteen days since you took your love away (きみが愛を連れ去ってから、13日と7時間が経つ)」だった。サンディに戻ってきてほしいんだって思ったわ。これはラブソングじゃないの。彼女はプリンスの恋人じゃなかったから。でもこの曲のインスピレーションになっているのはサンディだと思うわ。

https://rockinon.com/news/detail/175608

この記事のお陰で、長年疑問に感じていた歌詞の一部がすんなり理解できるようになりました。

Since you been gone I can do whatever I want
あなたがいなくなったから、好きなことやれるし
I can see whomever I choose
誰に会うのだって自由よ
I can eat my dinner in a fancy restaurant
高級レストランでディナーだって
But nothing
それなのに
I said nothing can take away these blues
どうしても、この悲しみを振り払えないの

https://doniepuru.muragon.com/entry/103.html

「高級レストランでディナー」は恋人がいても行けるんじゃない?
いや、むしろ恋人と行く場所でしょう?
相手が相当な倹約家かファーストフードで済ます感じな人なのかな?
プリンスの財力ならどんなレストランだって思いのままだろうに…ってアレコレ考えていましたが、『U』が身の回りの世話をする家政婦さんだと知って「ああ~なるほど!」と腑に落ちました。
だって家政婦さんが食事の準備していたらレストランに行く必要ないもんね。ってことで長年のモヤモヤがスッキリでした!

最後に、『Nothing Compares 2 U』の思い出を一つ。
シネイド版『Nothing Compares 2 U』が大ヒットしているさなか、プリンスがライブツアーで来日した時のこと。
観衆にマイクを向けて『Nothing Compares 2 U(あなたに代わるものはない)』と歌うように促し、観衆がプリンスに向けて『Nothing Compares 2 U(あなたに代わるものはない)』と歌う姿にプリンスは満足そうな表情を浮かべていました。
ナルシストの真骨頂かい!と心の中で突っ込みつつも、この言葉以上にプリンスを称える歌詞はないなぁ~と妙に納得しながら大勢の観衆と共に大声で歌いました。

と、いう訳で、
この記事の締めに今一度あなたに向けて歌おうではないか!

Nothing Compares 2 U(あなたに代わるものはない)~♪
と…

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