【アルバム】The Black Album・天才が放つ極上のファンクサウンド

アルバム:The Black Album(ブラック・アルバム)
  1. Le Grind
  2. Cindy C.
  3. Dead On It
  4. When 2 R In Love
  5. Bob George
  6. Superfunkycalifragisexy
  7. 2 Nigs United 4 West Compton
  8. Rockhard In A Funky Place

その頃(1987年頃)、今のようにインターネットが普及していなく、プリンスの新譜情報はFM放送専用雑誌「FMファン」の洋楽ニュースから得ていた。
主に本屋で雑誌を立ち読みし、プリンスの記事が少しでも掲載していれば購入し、記事を切り取ってバインダーにスクラップして、後でニヤニヤ眺めるのが楽しみの1つだった。
そんなある日、雑誌の発売日に本屋を訪れ、いつもの様に雑誌の洋楽ニュースコーナーを開くと・・・
な、なんと「The Black Album」のアナウンスが!
なんでも「ファンク・バイブル」とも言われているスーパーファンクアルバムが年末に発売されるらしい!しかも新型ラップも聴けるそうだ!
名盤 Sign ‘O’ The Times の興奮がピークの中で舞い込んできた新譜情報。
否が応でも期待値はマックスを叩きだした!
天才が放つスーパーファンクアルバム。
ファンクという意味はよく分からないが、おろらく超ファンキーな曲が目白押しなのだろう・・・まあ、ファンキーの意味もよく分からないが・・・。

そしてスクラップした記事をニヤニヤと眺めながら、今か今かと発売日を待ち焦がれた。

・・・が
しかーーし!
かかーーーーし!
がっくーーーーーーーし!

FMファンの洋楽ニュースコーナーに無情の告知が・・・
「The Black Album」発売中止!
なんとプリンス自らの私的理由により、50万枚ほどプレスして発売を控えていたアルバムが全て破棄されたというのだ!

なんでも当時のプリンスはやたら怒っていたらしい。
「もうプリンスなんてファンキーじゃない!」そんな批判に対して、悪のペルソナ、スプーキーエレクトリックと化したプリンスは、暴力、怒り、侮辱など負の感情を詰め込んだ「どす黒いアルバム」を解き放った!
「行け!スプーキーエレクトリック。お前の凄さを思い知らせてやれ!」
しかし、発売寸前になって考えを改めたプリンスは「The Black Album」と決別し、アルバム破棄を決意した。(ああーーーもったいない)

こうして完全に「The Black Album」は闇に葬り去られた・・・かに思えたが、何枚かのレコードは破棄を免れて、そのまま闇音楽市場に流出し、ブートレッグ業界を大いに賑わせることになった。

プリンスの「The Black Album」が海賊版として手に入る?!
そんな怪情報が、音楽雑誌の広告欄に白昼堂々と大々的に宣伝されていたのだ!!!
その広告を見て、いてもたってもいられなくなった寿限無は、海賊版「The Black Album」を手に入れるため、海賊版専門レコード店がひしめく新宿へと向かった。
初めて入店する海賊版専門店は、見たこともないレコードや珍しいグッズが並べられ、否が応でも気持ちは高ぶった。
「本当にブラックアルバムはあるのか?もし売れ切れていたらどうしよう・・・」
そんな不安をよそに、「P」の「PRINCE」コーナーに真っ黒なジャケットが置かれていた。オレンジ色の四角いプレートに「The Black Album」の文字!
「やった!本当に本当にブラックアルバムだ!」
プリンスの我がまま・・・いや、私的判断により、日の目を見ることは無いと思われた幻のアルバムが、今、アメリカからの長い旅を終えて、寿限無の元へ辿り着いたのだ!

近年希に見る感動と興奮のあまり、鑑賞用と保管用で2枚購入し、急いで家路に着いた!
途中で夢が覚めないように・・・出来る限り早く
アルバムを落とさないように・・・しっかりと抱え込み

家に着くと、真っ先にステレオへ向かい、レーコードプレーヤーの針をアルバムに落とした・・・
そして、そこから聞こえて来た音は!!!

ブツブブブブツ・・・ジャージャージャーーン・・ブツ・ジャージャージャージャーン・ブツブツ・・・ピーポー・ゲ・レデー・ブツ・・・

な、な、な、なんじゃ、このノイズ!
しかも音飛びしている!輸入盤だから盤面が汚れているのか?
だが盤面は綺麗で新品同様(いや、新品だから)。試しにもう一枚のアルバムも聴いてみたが、まるっきり同じ状況で、まったく同じ位置で音飛びしている・・・ん?
な、なんと!元々ノイズと音飛びした酷い状態のまま録音されていたのだ!
「なんじゃ、これは!詐欺か!イカサマカ!アメリカの陰謀か!」
私は早速、購入したレコード店にクレームの電話を入れた!
だが、電話口から聞こえてきたのは、血も涙もない無慈悲な返答だった・・・

「海賊版はそういうものです。」

えっ?・・・
そうなの?・・・
し、知らなかった・・・。

確か2枚くらい購入したよね?鑑賞用と保存用
1枚4,000円近くしたよな?

はじめて体験した海賊版の洗礼。

だが腐っても鯛、ノイズだらけでも「The Black Album」。
耳を塞ぎたくなる音質の中でも、天才が紡ぎ出した音楽は躍動していた!

そもそもノイズのような、スクラップのような、ガラクタを寄せ集めたような音の断片が、天才による匠の技で極上のファンクサウンドに生まれ変わるのだ!
それで新型ラップはどれだ?おそらく3曲目かな?全然ラップには詳しくないから、どこが新型か分からない!
しばらくの期間、(音の悪い)ブラックアルバムに夢中になった。

その後、音質がまあま良く、音飛びも無いCDタイプの海賊版「The Black Album」が流通し、闇音楽市場が更に賑わい、最終的には記録的な枚数を売り上げたらしい。

そして1994年、ついに正式にワーナーブラザーズから「The Black Album」が発売されたのであった。
散々闇市場で消費尽くされたアイテムだが、当然、これまでで最高音質なのは間違いないのと、日本語対訳も付いているので、改めて幻のアルバムを購入した。
長年謎だった歌詞の意味も分かり曲の味わいも深まった。

今から30年以上も前に聴いたアルバムなのに、「The Black Album」を思うたび、あの頃の興奮が蘇り、今でも新鮮な気持ち・・・いや、神聖な気持ちでアルバムと向き合える。
それだけ私にとって大切なアルバムなのだ。
極上のファンク体験「The Black Album」。
今だにファンクの意味はよく分からないが・・・。

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